ドレイン接地小信号増幅回路の解析

1. 回路図





2. 増幅回路の等価回路

ソース接地小信号増幅回路の等価回路は下図となります。
カップリング・コンデンサ(Ci, Co)に十分大きなものを使用したとすると、
そのインピーダンスが無視出来るので交流的な等価回路では短絡して
考えることが出来ます。また理想的な直流電源のインピーダンスも0です。
この回路は小信号増幅を行うので、FETは線形動作するものとして近似し
ドレイン接地の等価回路で置き換えています。




3. 増幅回路の入力インピーダンスの計算

上記の等価回路から、回路の入力インピーダンス(Zi)は下記となります。
Zi = R_G

FETの入力インピーダンスは数十MΩ以上あるので、ZiはR_Gに等しくなります。
ただしこれは低周波の場合で、FETのゲートには静電容量があるので、
高周波の場合は静電容量を考慮する必要があります。


4. 増幅回路の出力インピーダンスの計算

同様に等価回路から、回路の出力インピーダンス(Zo)を求めます。
電流源の内部抵抗は無限大であることに注目すると、
Zo = R_S // {r_d/(μ + 1)}

ここで、r_d >> 1/g_mの関係が成り立てば、
Zo ≒ R_S // 1/g_m

さらにR_S >> 1/g_mが成り立てば
Zo ≒ 1/g_m

とすることが出来ます。


5. 増幅回路の電圧増幅度の計算

この増幅回路の出力にインピーダンスR_Lの負荷回路を
接続したとすれば等価回路は下図となります。

出力側の電圧v_sdを計算します。これは
並列接続された三つの抵抗の合成値に電流源からの電流をかけたものとなります。
まず、Rを下記で定義します。
R = R_S // R_L = R_S * R_L / (R_S + R_L)

そうすると
v_sd = g_m * v_gd * [{r_d/(μ + 1)} // R]
　= g_m * v_gd * [{r_d/(μ + 1) * R} / {r_d/(μ + 1) + R}]

[]内の分母・分子に(μ + 1)をかけて
v_sd = g_m * v_gd * r_d * R / {r_d + (μ + 1) * R}

μ = g_m * r_dなので
v_sd = v_gd * μ * R / {r_d + (μ + 1) * R}

よって電圧増幅度Avは
Av = v_sd / v_gd
∴　Av = μ * R / {r_d + (μ + 1) * R}

r_d >> 1/g_mの関係が成り立つなら
Av ≒ g_m * R / {1 + g_m * R}

さらにR * g_m >> 1であるならば
Av ≒ 1

となり、出力電圧v_sdは入力電圧v_gdに等しくなります。
このことから、ドレイン接地は別名ソース・フォロワとも呼ばれます。



6. 入力側カップリング・コンデンサCiの影響

入力側カップリング・コンデンサCiの影響を検討します。
出力側カップリング・コンデンサCoをこの後の項で検討するように
無視出来る値(インピーダンス≒0)に設定し、Ciのみを残すと等価回路は
下図のようになります。



CiとR_Gはローカット・フィルタ(Low Cut Filter)を
形成するため、周波数が低くなると減衰を無視できなくなります。



この回路はCR回路そのものなので、カットオフ周波数(fi)は次の式となります。
fi = 1/(2π * Ci * R_G)



7. 出力側カップリング・コンデンサCoの影響

出力側カップリング・コンデンサCoの影響を検討します。
入力側カップリング・コンデンサCiを無視出来る値(インピーダンス≒0)
に設定し、Coのみを残すと等価回路は下図のようになります。


並列接続されたr_d/(μ+1)とR_Sを纏めてZoとします。 すなわち
並列接続されたr_d/(μ+1)とR_Sをひとつに纏めます。
これは出力インピーダンスZoと同じものになるので、
Zo = {r_d/(μ+1)} // R_S
　= {r_d/(μ+1) * R_S} / {r_d/(μ+1) + R_S}

すると、下図の等価回路となります。ここで、赤色の点線部分はノートンの等価回路の
形をしていますので、これを テブナンの等価回路に書き換えます。


そうすると下図となり、ローカットフィルターを形成します。


カットオフ周波数を決めるためにv_oの値を計算します。
v_o = (gm * vgd * Zo) * R_L / { Zo + 1/(jωCo) + R_L}
|v_o| = (gm * vgd * Zo) * R_L / √{ (Zo + R_L)² + 1/(ωCo)²}
　　 = (gm * vgd * Zo) * R_L / [(Zo + R_L) √{ 1 + 1/(ωCo)² * 1/(Zo + R_L)²}]

v_oが(gm * vgd * Zo) * R_L / (Zo + R_L)の1/√2(=-3dB)になる角周波数ωは
上式の√の中が2となるときなので
1 + 1/(ωCo)² * 1/(Zo + R_L)² = 2
1/(ωCo)² * 1/(Zo + R_L)² = 1

両辺の平方根をとると
1/(ωCo) * 1/(Zo + R_L) = 1
ωCo = 1/(Zo + R_L)
∴ ω = 1/{Co * (R_D + R_L)}

カットオフ周波数をfoとすれば、
fo = 1/{2π * Co * (Zo + R_L)}

となります。ここでr_d>>1/g_mが成り立つならば
Zo ≒ R_S / {1 + g_m * R_S}

さらにg_m*R_S>>1が成り立つならば
Zo ≒ 1 / g_m

となるので、
fo ≒ 1/{2π * Co * (1/g_m + R_L)}




8. 参考文献

1. 簡明電子回路入門(1980 初版) 9.4 FET増幅回路、矢部初男著、槇書店